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竜胤を受けた者は主を縛る。
その意味がわかったきがした。
エマ殿にもらった傷薬瓢箪を狼に渡した、それをあとでエマに「狼殿に預けられたのですね」と聞かれる。狼のが常に危険な場に身を投じているだろうからな、と思ってのことだった。だが、エマ殿はこちらがそうしたことに驚いた様子であった。
だが、私は間違ってはいなかった。瓢箪を渡して数刻後には狼はすすき野原にて弦一郎と対峙していたからだ。私を守ろうとしてくれた。その時も、あの時も。
弦一郎殿に話がある、と呼ばれたときに葦の葉笛を吹いた。
この時も狼を思った。
「葦の葉笛じゃ、この音を頼りに今度はお主が参れ」
弦一郎殿に竜胤の契りを迫られたときも拒否反応を起こした。嫌だと思った、その次には私には狼がいるのに、とそう思った。
我が忍び、主従の関係ではある。だが自分の思いはそれ以上になってはいないか。
狼が弦一郎を伸し、そして自分の前に改めて膝まづいてくれたとき、なんとも言えない感情が湧き上がった。
ここに来るまでの道のりは激しかったはずだ。狼の身は傷つき、そして顔にできた白い痣はさらに広がっていて胸が痛んだ。
傷ついた狼。命を賭して、という約定のとおり、本当に命を投げ捨てるかのように私のところに来てくれる。守ってくれる。
平田にいたときはこれほどでもなかった気がする。自分の側で何かあれば身を呈して守ってくれる忍びではあるが、これほどに強く心を揺さぶられなかった。竜胤を彼と契った私は、彼に対し感傷的になっているのかもしれない。
父さまと母さまを亡くし、もはや頼れるのは狼だけと思っているのかもしれない。
狼が梟を斬ったと私に言ったとき、私は更に強く揺さぶられ、泣いた。狼は、何を泣くのです、という顔をしていたがそれがさらに私を泣かせた。
第一に大事な親と思っていたものを自らの刃にかけるなど辛くないはずはない。
「為すべきことを、為すのです」
狼はそう言ってくれた。その声色の優しさに、自分を責めなさるな、と言われているようでまた辛くなった。
狼は口数は少ないけれども、面差しと声がとても優しく、そのようなところも私は想っていた。
仙郷へ至る香も揃い、狼は香を纏い天守よりさっていく。エマ殿も荒れ寺に行くといい、私は天守にひとり残された。一心様がたまに、大事ないか、と顔をみせてくれるが、一心様も止まらぬ咳をしている。竜咳なのやもしれぬ。
私は謝罪する。私が狼と契ったせいで、この葦名には戦病が蔓延っている。それゆえ、葦名の戦力は削がれているのは事実に近かった。
葦名は平田の本家でもあり恩もあった。だが、それより私は狼の命を救いたかった。
狼にも言ったが、私は何度あの運命をたどろうと狼と契っただろうし、狼に生きて欲しかった。
生きて欲しかった。
最期私に竜涙を飲ませてくれた手を忘れない。
義手ではあるが私の頬に触れてくれたとき、温度を感じた。
あのような形で私の「ずっと触れたかった、触れられたかった、抱きしめ抱きしめられたかった」という想いが叶うとは。
私の胸に立てた剣を忘れない。
「我が生涯の、忍びよ」
私は言った。精一杯の思いだった。生涯と通して、たった一人あなただけ。
見上げたとき、狼は泣きそうであった。その面差しをずっと想っていた。
「不死断ちをお願い、できますか」
これであなたは私に縛られることもない。私もあなたへの思いに縛られることもなくなろう。
私の思いは主従のもの以上であった。
あなたは何ものにも代え難い、大切な人であった。
あなたは、最後まで、気づかなかったと思うけれども。
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